32話「小さな背中」




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 虹雫の職場の前に到着する。
 就業時間ギリギリまで2人で過ごし、宮が彼女の職場まで車で送る事にしたのだ。
 それでも、虹雫は離れるのが不安そうだった。それもそうだ、昨夜あんな事があったのだから。また、あの澁澤が来るかもしれない。そう考えているのかもしれない。


 「虹雫、大丈夫だよ」
 「え………、何が?」
 「さっき剣杜に確認したら、あの男は今日1日映画の撮影現場に同行するらしい。だから、虹雫の前に姿を現す事はないよ」
 「そ、そうなんだ………」


 彼女は曖昧な笑みを浮かべた後、「じゃあ、安心だね」と言って助手席のドアを開けた。


 「じゃあ、行ってきます。宮、……絶対に帰ってきてね」
 「もちろんだよ。仕事頑張って」
 「………うん」


 虹雫を安心させようと、宮はにこやかに笑いかけ、ハンドルから手を離して手を振る。虹雫はそれをマネするように手を振った後に助手席のドアをバタンッと閉めた。そして、職場である図書館の入口へと歩いていく。
 彼女の細い背中を見つめながら、宮は「よくやく彼女の気持ちを伝えられたな」と一人感傷の浸ってしまう。よく彼女の背中を追ってみていたなっと、昔の自分を思い出してしまうのだ。
 思いを告げずに彼女の背中を見送っていたいた日々を。