「………ん………」
 「また、何か考え込んでる。………俺はずっと君を近くで見てきたつもりだよ。誰よりも知ってる自覚がある」
 「それは……私もそう思うよ……?」
 「そんな俺が全部の君が好きだって謂ってるんだけど、それでも不安になる………?」


 あぁ、そうだ。
 彼はそういう男の人なのだ。


 虹雫の弱いところも、悪いところも全てを知って守ってくれ、温かく支えてくれる。
 それは、すべて虹雫への愛情だったのだと、今になってわかった。もちろん、幼馴染みとしての優しさもあっただろう。けれど、それ以上に好きな人として優しくしてくれていたのだ。
 自分が宮が好きで、一緒に居たい、優しくしたい。そう思ったように。


 それがわかり、虹雫は思わず笑顔になる。
 自分は十分に愛されていたのだ、不安になることはない、とわかったのだ。


 「………その表情は、わかってくれたみたいだね。さ、仕事に行く準備をしないと遅れるよ」
 「うん。……ねぇ、宮?」
 「うん?」
 「宮は……今日の夜、私を迎えに来てくれる?」
 「さっそく、恋人に甘えるの?可愛いね」


 クスクスと笑いながら、宮は虹雫の頭を撫でる。「もちろん、迎えに行くよ」と頷いてくれる。これで安心のはずだ。だけれど、虹雫のざわついた気持ちは少しも収まらない。


 そのとき、どうしても彼と離れたくなかった。それは、昨夜の恐怖の再会があったからだと、虹雫自身も思っていた。

 けれど、それは宮の些細な変化を感じていたからだったのだと、その時に虹雫には気づく余裕さえなかったのだった。