28話「助けて」




 「あなたは」


 虹雫は、震える声をもらし、座ったまま後ずさりする。が、すぐに逃げ道はなくなる。道路を囲む塀に背中がぶつかってしまう。
 いつもならば街灯は夜に安心をくれるもののはずだ。けれど、今だけは作られた眩しい光の中で微笑む澁澤はとても恐ろしく、怪しさを含んでいる。


 「もう何年も前の事なのに僕の事を覚えてくれていたんだ。嬉しいですよ、虹雫さん」
 「………どうしてっ」
 「どうして?それは俺のセリフです。わかっていますよね?僕がおまえの前に表れた理由が」
 「………」


 何故か穏やかに話を続ける澁澤に、虹雫は不気味さを感じる。
 昔見た時よりも老けてはいるが、あの頃と同じ歪んだ笑みは変わってはいなかった。虹雫をゴミのように軽蔑するような視線を向けながら、嘲笑っているのだ。
 

 「怖すぎて声が出ない?そんなに怖がらなくてもいいんですけどね。じゃあ、僕から教えてあげましょう。俺がおまえから譲り受けた小説。あれを自分の物だと出版社にメールを送りましたね?」
 「そ、それは……」
 「それに、また小説を書いて出版社に送ったんだとか。しかも、あの副社長まで話がいってるなんてね。うまくやりましたね。どんな手を使ったんですか?」
 「わ、私は正々堂々と小説を送っただけッ、………ッ…………」