桜もすっかり散り、新緑を感じられる桜の木を見上げ、虹雫はふぅとため息をついた。
 今日は、仕事で帰りが遅くなり、さらに本屋で時間をつぶしていたため、帰りがすっかり遅くなってしまった。仕事終わりにすぐに帰宅しても、宮に会える事はなく、スマホを見つめては連絡をしようとしてはためらう日々が続いていた。宮が虹雫に温度のない声で放った「連絡しないで」の言葉は時間が経つにつれて重くなっていく。
 少し前まであんなに幸せで、彼の体温を感じては気持ちを高揚させていたのに、今は全くの逆だった。春になり温かくなったはずなのに、寒く感じられてしまい、虹雫は来ていたトレンチコートを握りしめた。

 夜遅くになってしまったのが、節約のため冷凍していたカレーを温めて食べればいいかな、など帰宅後の事を考えながら人気のない道を歩く。
 今日は金曜日でも土日でもないため、夜になると家の近くでも人通りは少ない。駅から近いとしても数分は怖いなと思う人気がない場所を歩かなければいけない。
 案の定、今日も誰もいない。女性が歩いていれば何となく安心するのにな。と思いつつ、少しだけ歩く速度を速める。カツカツッと静寂が支配する住宅街に虹雫の足音だけが響いていた。


 次の街灯を過ぎればもう少しで自分の住むマンションは目の前だ。
 ホッと息を吐こうとしたが、それはすぐに飲み込まれた。
 街灯の光りが当たる真下の道路。そこに、何かが落ちていた。乱雑に何かが散らばっているようだった。何かゴミでも落ちているのか。そう思ったが、近づくにつれてそれが紙だとわかる。何かの広告だろうか。
 足を前に進めていけば、おのずとそれに近づいていく。そのうちに、それが写真だとわかる。が、暗くてよくわからない。そして、その写真の真上まで来て、ようやく何が写っているのか鮮明に認識する事が出来た。