自分の激し心拍で体が揺れている。鼓動の音が大きく、男の声があまり耳に入らない。
 それほどに、澁澤は動揺し、一気に血液が頭に上がっていくのを感じた。

 「澁澤先生の作品を盗作呼ばわりした奴の小説を売ろうとするなんて、俺は信じられないですけどね。読みたいとも思いません。………先生?どうしました?」
 「あ、うん。そうだな。………俺もそう思う」


 考えを事をしていたので曖昧に返事を返す。
 そのスタッフはその後も何か文句を言った後に打ち合わせ室から退出していった。その情報を耳に入れてくれた事に感謝しかない。もし知らなかったら、取り返しのつかない事になってしまっていたかもしれない。

 あの女子高生がまた小説を書き始めた。
 問い合わせのメールを送ったのも驚きだったが、小説を出版社に送って来たというのは、信じられなかった。
 あんなに震え、怖がり、写真の露出を嫌がっていたのに。今まで何もせずに静かにしていたはずなのに。

 どうして、今さら動き始めたのか。


 そう思った瞬間に怒りの感情が湧き上がって来た。
 やはりあれだけの脅しでは聞かなかったのか。
 年月が過ぎれば、記憶も薄れ、恐怖も忘れてしまうのだろうか。