どことなく不安を感じながらその場に佇んでいると、奥から顔なじみのスタッフが焦り顔で駆け寄ってきた。
 彼は自分より若いが、自分の作品を昔から好きでいてくれる人物で、澁澤に懐いてくれていた。
 以前、盗作の問い合わせのメールがあったと教えてくれたのも彼だった。


 「今日はどうしました?」
 「映画のパンフレットに載せるショートストーリが完成したから持って来たんだ。担当さんいるかな?」
 「早いですね!今、呼んできますので、先生こちらにどうぞ」


 そういうと、部屋の奥の打ち合わせ室の1室に澁澤を案内した。澁澤がいつも使用している部屋の1つだ。そのこには、最新の本の発売を知らせる広告用のポスターが並べて貼られており、もちろん『夏は冬に会いたくなる』の映画ポスターもある。それを目にするだけで、澁澤の顔には笑みが浮かぶ。


 「……澁澤先生、少しいいですか」
 「あぁ、何かあったのか?」


 担当を呼びに行った先程のスタッフが、こちらに戻ってきて、澁澤の横の椅子に腰かける。
 そして周りをキョロキョロと見て誰も部屋に入ってこないのを確認すると小声で話を始めた。

 「例の盗作の問い合わせをしてきた人物の話なんですけど、少し動きがあったんです」
 「……またか。しつこくメールでも来たのか?」
 「それが、その人物が自分の書いた小説を読んで欲しいって、データを送って来たらしいんですよ」
 「なッ………」
 「それを読んだスタッフ達の間で話題になっていまして。逸材が現れた、感動作だって。まぁ、俺は読んでないのでわからないんですけど。どうやら、出版する流れになってるみたいですよ」
 「…………」