「………剣杜、もしかして私の盗られた小説が何か知ってるの?」
 「悪い……知ってる」
 「知ってて、映画に出るの?」


 虹雫の胸から顔をはがし、彼を見上げる。
 まさか、知られているとは思わなかったので、虹雫は驚きと戸惑ってしまう。
 誰かに盗られた自分の物語などに出てほしくないのに……。

 「原作者の名前が違うだけで、あの映画はお前がつくったものだろ」
 「え……」
 「盗まれたからと言って、おまえがあの小説が作った事実は変わるはずがないだろう。俺や宮は、本当の事を知っているんだ。虹雫の物語が映画になったのなら、出演したい。力になりたいって思っただけだ」
 「………ありがとう」


 剣杜の思いを初めて聞き、虹雫は胸の奥にその言葉が響いた。
 あの日から忘れる事なく、大切に胸にしまいこんでくれていた。本当におしまいにしていいのか、と迷いながら。

 そして、宮も。

 宮が虹雫に対して怒ることはなかったと言っていいほど少ない。怒っていたとしても感情を露骨に表に出したり、虹雫と距離を取ろうとする事もなかった。それだけ、彼が本気で怒ってしまったのだ。
 本気で、虹雫の小説を大切にしてくれていた。それが虹雫にはよく伝わって来た。