25話「気づきと決心」



 どうして、こんな事になってしまったのだろう。
 夢を叶えたいのに、忘れてしまいたいだけなのに……どうして?
 その場で虹雫は涙を流し続けた。


 「………何やってんだよ、おまえ」


 そんな弱りきった虹雫を見かねて、剣杜は虹雫の肩を抱きよせてくれる。
 背中をポンポンッと優しくさすってくれるが、それは泣いた子どもあやすようだった。


 「……剣杜……」
 「忘れようとしても忘れられなかったのは、おまえだけじゃない。そういう事だ」
 「……でも、もう何も出来ないよ」
 「まだ何もやってないだろ?今まで俺たちはずっと見て見ぬふりをしてきたんだ。けど、やっぱりそれじゃだめだって思ってるよ。俺も宮も」


 昔、火を囲んで忘れようと約束した事件。
 そんな事で忘れられるほど、人間は簡単ではなくて、悲しいことほど、忘れたいと願うことほど忘れられないのだ。
 自分が招いた結果だが、誰にも話せずに苦しんでいたのは虹雫だけではなかったようだ。宮と剣杜は、優しすぎる。自分の事のように、盗作事件について心配し、気を使いながら虹雫に接していたのだろう。
 そして、虹雫の奪われた小説を、まだ諦めてはいないということをその時初めて知った。