24話「遠い背中」




 追い打ちをかけるように、虹雫の耳に信じられないニュースが飛び込んできた。
 「夏は冬に会いたくなる」の映画に、椛が出演するというのだ。
 椛は剣杜の芸名。虹雫は、そのニュースをTVで見た瞬間持っていたグラスを落とし割ってしまうぐらいに動揺した。
 今までドラマや映画に出演することを嫌がり、「自分はあくまでモデル」という意志を貫いてきた剣杜。それなのに、どうしてよりによってこの映画に出てしまうのか。
 剣杜はこの映画が虹雫が書いたものだとは知らないはずだ。虹雫は宮と剣杜に詳しい話はしていないのだから。けれど、前に剣杜と一緒に本屋に行ったときに、自分でも驚くぐらいに動揺してしまった。それで、虹雫は剣杜には気づかれてしまっていたと思っていた。
 けれど、もし気づいていたとしたら、映画のオファーなど受けないはずだ。


 「………たまたまだよね。でも、剣杜の初映画出演がこの映画、か………」


 虹雫は複雑な気持ちで、そのニュースを呆然と眺めてしまった。そして、あまりに考えすぎて出勤の時間を過ぎてしまい焦って準備をしたのだった。


 仕事中も、先日の一条の話を考え込む事が多くなり、ミスが増えてしまった。体調が悪いと思った同僚などは心配してくれたが、虹雫は申し訳なくて仕方がなかった。
 ミスで遅れてしまった分を取り戻すために、残業をすることも多くなった。この日は虹雫1人で図書館に残り仕事をこなしていたが、やはり仕事に集中出来ない。