23話「希望は雲に隠れ」




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 自分は懲りていないのだろうか。
 前にもこんな事があったのに。もしかしたら、嘘かもしれない。
 待ち合わせ場所に行ったら、あの男が待っていて、ニヤリと厭らしい笑みを浮かべて自分を迎えるかもしれない。そう思うと、虹雫は体温が一気に下がり、冷や汗が流れる。歩く速さは遅くなる。そして、その場に止まってしまう。人通りの多い道だったため、周りの人は怪訝な表情で虹雫を見たり、舌打ちをしたりしながら虹雫から離れていく。


 「……………」


 けれど、自分が決めた事。
 宮に見合う人になるために、自分のやりたい事をしていくために、動き出したのだ。
 待ち合わせ場所にもしあの人がいたら走って逃げよう。そして、宮に連絡しよう。そう心に決めて重たい足を動かし、ゆっくりと歩きだした。


 出版社の一条という人物とやり取りをして、実際に会う日時や場所を決めた。
 彼女の提案で、出版社で会う事になった。提示された場所ならば男がいる可能性は低いのではないか。そう思ったのだ。そして、出版の話も本当なのでは、と期待も出来た。

 出版社のオフィスが入っているのは、まだ新しい高層ビルの一室だった。といっても、数階にわたってその会社が所有しているようだった。虹雫が緊張した面持ちで受付に声を掛けて、一条を呼んでもらうと、すぐ近くに待機にしたのか「初めまして。遠い所、ご足労いただきありがとうございます」と女性の声が聞こえてきた。虹雫は、声の主へ視線を向けた瞬間、驚きで声を上げそうになった。そこに居たのは、以前宮と一緒にホテルへ向かった女性だった。