だが、お試しであったとしても宮と付き合えた事で、少しずつ虹雫の気持ちが変わっていった。本当の恋人になりたい。負けたくない。宮の隣で自信をもって「恋人です」と言えるようになりたい。
 忘れると約束を交わす事で、忘れたふりをした。けれど、本当は忘れられなくて、ずっと怖がって逃げてきただけだったのだ。2人の優しさに甘えて、忘れたふりのしてもらっていた。
 それなのに、どこか不安で自信がなくて。そんな虹雫に気付きながら、2人は守り続けてくれていた。


 だけど、1つの物語を作り上げた時。
 虹雫は「あぁ、これがしたかったんだ」と、達成感と充実感を味わえた。
 懐かしくも誇らしい感覚。始めは苦しく怖かったけれど、それでも夢中になれた。


 「いいものが出来てよかった。これで、少しは変われるかな………」


 一人そう呟き、PCの画面を閉じた。
 きっと返信など返ってこないだろう。もう少し落ち着いたら、どこかの出版社の小説大賞に応募してみようかな、と考えた。そんな風に思えるぐらいに、虹雫の気持ちは少しずつ前を向き始めたのだった。






 それから1週間経ったある日。
 仕事が終わった後、虹雫はすぐに帰宅をしていた。今日も宮は仕事が入ったらしい。最近忙しいので電話だけで終わっている。毎日欠かさずに連絡をくれるだけでも、恋人らしさを感じられて嬉しいが、内心ではまだ不安もあった。宮は、あの女性とまた会っているのではないか。仕事だったとしても、それを考えるとモヤモヤしてしまう。