21話「動き出す歯車」



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 「それでは初回打ち合わせを始めます!それでは、順番に自己紹介と意気込みのほどを順番にお願いします」


 『夏は冬に会いたくなる』の映画収録が始まる。その打ち合わせがいよいよ本日に行われるのだ。少ししか出番がないものの、剣杜はサプライズ出演として決まっていたので、出席になっていた。


 「それでは、原作者の澁澤先生からご挨拶をお願い致します」


 知り合いのスタッフや出演者もいたので、対しては緊張はしていなかったが、この言葉で一気に背筋が伸びた。「はい」という低い声が耳に入るが、ドクンドクンッという自分の鼓動が激しくなり、聞き取り難い。笑顔を浮かべるようにしながら、ゆっくりと視線を上げる。
 と、そこには中央の席に立つ中年の男性が笑顔でマイクを握っていた。中肉中背のスーツを着た男で、どこにでもいるサラリーマンのように見える。髪を短く揃え、スーツやシャツには皺がない、清潔感を感じられるような男だ。見た目は普通だが、ニコニコと笑みを浮かべながらスタッフを見つめる彼に好感をもつ人間がほとんどだろう。皆が緊張した表情から少し安堵したものに変わっていく。