ニヤリとした企みを含み笑みを浮かべた澁澤は、打ち合わせ会場のビルを出て街を歩く。
 目の前には大きなモニターがあり、ちょうど「夏は冬に会いたくなる」の告知CMが流れていた。そこに「原作 澁澤悠陽」という自分の名前が映し出される。
 それを見るだけで、澁澤は自身を取り戻し、満面の笑みを浮かべて街を堂々と歩ける。

 ネットの片隅に埋もれていた素人が書いた小説。
 それを見つけて、ここまで光りを当てられたのは自分の頑張りなのだ。
 ここまで、成功させる小説に成長させたのは、自分の力だ。

 だから、あの物語は俺が作ったものなのだ。


 澁澤は、大型モニターから視線を逸らし、噂話の事を考えるのは止めようと決めた。
 有名作家は次の物語を考える必要があるのだ。沢山のファンが待っているのだから。

 ノートパソコンが入ったバックを肩にかけて、澁澤は人がごった返す休日の街の中を歩き、その喧騒に紛れて消えていった。