澁澤は、荒い呼吸のまま低い声で唸るように独り言を残した。
 今、そんな話が世間に露見し、真実がバレてしまえば澁澤が今まで築き上げてきた作家としての経歴に傷がついてしまう。そして、一生小説を発表することが出来なくなってしまう。

 そう思うと冷や汗が止まらなくなる。


 「澁澤さん、体調悪いんですか?」
 「え……」
 「映画の発表で、いろいろお仕事が立て込んできてますよね。次回作のオファーも来ていると聞きましたし。無理なさらないでくださいね」
 

 今日は映画製作のスタッフと打ち合わせがあった。原作にはないシーンを入れる事になり、監督とそのシーンを話し合っていたのだ。だが、その噂話を耳にしてから、映画の事に集中出来ずに不安が思考を支配していた。いつもと様子が違う事に心配したスタッフが、打ち合わせを早めに切り上げる事を提案してくれたので、澁澤はそれに甘えることにした。


 もう少しで映画に出る俳優たちとの初顔合わせもある。
 今、そんな噂に気を取られている暇などないのだ。


 「あんなに脅したんだ。きっと、いたずらメールだろう。それに、もしあの女がしつこく食いついてくるのなら、あの写真で脅せばすむことだしな」


 澁澤は一人でそう自分に言い聞かせた。
 自分には大きな切り札があるのだから、何も心配することはないのだ。