粗方設営が終わり、現場の責任者である朱音ちゃんは名取フーズ側の担当さんに挨拶へ行った。
その間に私は受付に必要なパソコンを立ち上げ、今日の受診者の社員リストを用意していると、後ろからポンと肩を叩かれた。
振り返ると、長身で細身な白衣姿の男性の姿。
「あ、間宮さん」
「おはよう、瀬尾さん」
「おはようございます。今日は胸部の方でしたっけ?」
間宮誠司(まみや せいじ)さんは何度も現場で一緒になったことのある放射線技師さん。
C健の職員ではなく、派遣の技師さんだ。
事務を担当する私達がC健の職員だけでは足りない人員を医療系派遣会社に依頼し、現場に来てもらう。
レントゲン車で行う撮影は狭くて病院内の機材と勝手が違うので、こうして車内での仕事に慣れている技師さんが来てくれるのはとても助かる。
確か年齢は朱音ちゃんと同じで私の2つ上。年が近いせいか、一緒の現場になるとよくこうして声を掛けてくれる。
「そう。今日はマーゲンじゃないから瀬尾さんに介助に入ってもらえなくて残念」
「私まだマーゲンの介助得意じゃないんですよ。バリウム作るのにもたもたしちゃって」
マーゲンというのは胃を示す医療用語。放射線技師さん達にとっては、胃のレントゲン。いわゆるバリウム検査のことをここではそう呼んでいる。



