甘やかし上手なエリート医師に独占溺愛されています


「あの、食べづらい…です」
「うん、ごめんね。なんか可愛くてつい」
「か…っ、からかわないでください」

クマ先生みたいな父親ほど年上の男性ならともかく、そんな風にからかわれてさらりと流せるほど、私の男性に対する免疫は高くない。目の前の九条先生のようなイケメンだったらなおさらだ。

真っ赤になっているであろう顔を隠すように俯き気味で食べ進めていると、先生が何か思い出したように真顔になった。

「瀬尾さんはこの仕事長いの?」
「まだ1年とちょっとです」
「ってことは去年の新卒かな?」
「あ、いえ。私バイトなんです」

少し驚いた顔をした先生は、さらに私に質問を繰り返す。

「バイト?学生さんじゃないよね?」
「いえ、実は大学を中退していて…」


一昨年の春。桜が例年よりも早く咲き始めた頃だった。
私が小さい頃に夫を亡くし、女手一つで育ててくれた母に癌が見つかった。

病院で宣告された余命はおよそ半年。5年前に1度胃癌の手術を行っており、それが再発した形だった。

痛みも自覚症状もなく、発見が遅れてしまったのが致命的で、すでに他の臓器やリンパにも転移しており、手術は不可能。
痛みをとるためだけの薬に留め、あとは最期を待つしか出来なかった。