結婚の話が全部佐々木さん1人の嘘なのだとしたら、悠さんには何の非もない。それなのに私はあの日約束をすっぽかして黙って帰ってきた挙げ句、わざわざ家にまで来てくれた悠さんを会いたくないと言って追い返したんだ。
「ごめ、なさ……」
あまりの情けなさに顔を上げられない。
「謝らなくていい、遥は何も悪くない」
優しい言葉にぶんぶんと首を振るしか出来ない私をなだめるように、ゆっくりと頭を撫でてくれる大きな手。
「不安にさせてしまった俺が悪いんだ。もっとちゃんと話せばよかった」
そう言って、私が中途半端に聞きかじった噂の真相を話してくれた。
「お見合いは、確かに教授から何度か話をされたことがある。でも正式なものじゃなく打診の段階で、その場で真剣に付き合ってる女性がいるからって断ったんだ。まさかそんなことまで院内で噂になってるなんて。うちの病院はそんな暇じゃないはずなんだけどな」
悠さんが今日何回目かの大きなため息を吐く。
「…悠さんモテるんだから、ちょっとしたことだって噂になりますよ、きっと」
少し拗ねた口調になってしまった私を、彼はクスッと笑った。



