甘やかし上手なエリート医師に独占溺愛されています


驚いて振り返ると、大丈夫だと言うように微笑んで頷いて見せてくれた。

「システム環境の整った病院と違い、ここではほとんど人の手で受診者さん達の情報を管理しているんです。てんでバラバラの順番で検査して万が一抜けた検査があった時、わざわざ仕事を休んで病院まで出向いて再検査するほうが時間の無駄でしょう」

「だから、俺は健診なんてしなくても」

「年に2回、たった1時間ずつ掛けて健診を受ければ、病気を見逃して治療や手術といった煩わしさから解放されるんです。自費で治療を受けるよりも会社負担で健診を受けておいたほうが賢い選択ですよ」

九条先生は穏やかに微笑みながら男性社員に諭すように声を掛ける。
シンと静まり返った会場の中、注目を浴びて居たたまれなくなったのか、その男性社員も「…わかった」と受付済みの列に加わってくれて、私はホッと胸を撫で下ろした。


初日のちょっとしたハプニングは、C健に初めて来た九条先生によって解決した。

そのまま問診の個室に戻っていこうとした九条先生に、その場にいた女性達の蕩けるような熱い視線が向けられているのに気が付いた。

その気持ちはとても良く分かる。
彼は受診者さんを説得してくれただけだとわかっているのに、何だか庇ってもらったような気持ちになって、胸の高鳴りが抑えきれない。

健診会場となっている広い会議室を出ていく時、九条先生がこちらを振り返り視線が絡んだ。
ハッと息が詰まり、咄嗟のことに目線を逸らすことも出来ずにいると、にこりと微笑まれてさらに心臓がバクバク早鐘を打つ。

きっと今心電図を取ったら、とんでもない波形が出るに違いない。
目を見開いて会釈すら返せない私を笑って見ていた九条先生は、そのまま誰に声を掛けるでもなく隣の個室へ入っていった。