『薬も飲んだし平気なんだけど、1週間は自宅待機だから、悪いんだけどそっちの仕事もキャンセルさせてほしいんだ。派遣会社から連絡がいくとは思うけど、僕からも謝りたくって』
『わざわざありがとうございます。クマ先生、声もかすれてますよ。こちらは大丈夫なのでゆっくり休んで、お大事にしてくださいね』
『うん。遥ちゃんの声聞いて少し元気になったよ』
インフルエンザならきっと高熱で辛いだろうに、登録している派遣会社よりも早くうちに電話してきてくれたんだ。早く治って元気になってくれるといいな。
今回の現場は受診人数が多いので、クマ先生を入れて医師を3人手配していた。さすがに前日では引き受けてくれる代わりの医師を探すのは難しい。
初日だけはなんとか2人で乗り切ってもらうしかないかもと考えていると、電話口でクマ先生が代打の医師を行かせると申し出てくれた。
『僕の後輩なんだけど、海外留学から帰って来たばかりでまだ病院勤務が始まっていないし、時間はあるだろうから』
海外留学をしていたような先生に、出張健診なんてお願い出来るのだろうか。
決してこの仕事を蔑ろにしてみているわけではないけど、留学するなんて脳外科とか心臓外科みたいなイメージが強い。なんて、ドラマや小説の知識しかないんだけど。
それでも代打の先生が来てくれるのなら有り難い。
本来、派遣会社からの紹介以外の先生に来てもらうことがないので、一応出張健診部の小柴部長に確認すると『熊澤先生の紹介なら大丈夫かな。アテンドは中原さんと瀬尾さんで頼んだよ。上には僕からエスカレしておくから』という相変わらずカタカナ英語多めの返答が返ってきた。
朱音ちゃんは彼をこっそり『ルー部長』と呼んでいるらしい。



