「・・・阿部監督。
自分もウォームアップしてきます。」


「はい、渡辺君。
怪我には気をつけてください。」


同じ3年生・・
同じ2年半頑張ってきた仲間、

【代打の切り札】
渡辺くんも同じくベンチ裏へと下がった。



渡辺くんは・・ホントなら龍ちゃんや福留くんみたいに、

すっごく才能溢れるプレーヤーなんだけど・・


中学生時代、プレー中に負った怪我の後遺症で、

その腰と膝に“障がい”が残ってしまった選手でした。


・・・あ、でも障がいと言っても、
日常生活を送る上では全然支障は無くて、

一見すると・・
見た目では分からないけど・・

でも“プレー”という意味では残念だけど・・

“守備と走塁が難しい“
という診断となっていました。


でも渡辺くんは諦めなかった。
大好きな野球を辞めなかった。


ウチらと一緒に頑張ってきた2年半、

“代打専門”として1試合に1打席の出番。
でも、ウチらにとっては貴重な戦力。


いつ出番が回ってくるか分からない。
出番が無いまま試合が終わるかもしれない。


そんな“モチベーション”を保つのも難しい役割だけど・・

渡辺くんは一言も文句を言わずに、試合が始まったら黙々と準備に取り掛かって、

いつ声が掛かっても大丈夫なようにスタンバイする。


・・そんなひたむきな姿をみんな知っている。

だから・・みんなも全幅の信頼を寄せて、
渡辺くんを“代打の切り札”と呼んでいた。