「…あのさ、美緒ちゃん」

昇降口へ向かっている途中、千花くんが歩く速度を落とし、ピタッと足を止める。

首を傾げて「どうしたの?」と聞くと少し恥ずかしそうにする千花くんと目が合う。


「美緒ちゃんって彼氏いるの?」

「…彼氏?(現実には)いないよ!」

「え、じゃあ日山くんとはどういう関係なの?」

「日山くんは私の好きな人で今は友達って所かな!」


そう答えると千花くんは「そっか…」と消え入るような声が聞こえた。

「…やっぱり、美緒ちゃんが日山くんを好きなのは本当なんだ」

きゅっと口を結び、悲しそうに俯く千花くん。


「美緒ちゃんが廊下のど真ん中で日山くんに告白してて凄く目立ってたって同じ部活の友達から聞いてさ……」

「え、恥ず」


この前深森くんが言ってたな。

一部の人たちが私のことを"勇者"って呼んでるって…

「日山くんを好きなのはわかってるけど、オレ、諦めたくなくてさ」


───えっ…?


「嬉しかったんだ。美緒ちゃんが"千花"って名前『かっこよくて綺麗』って言ってくれたの……
だからオレ、少しでも美緒ちゃんの視野に入れてほしくて…その……」

「千花く───」


さっきから何言って……


耳まで真っ赤になっている千花くんが遠慮がちに私の袖を握る。