「あのね、あたし王子のこと好きなの。
あたしを王子の彼女にして?」


上目遣いでじりじりと距離を詰めてくる。

その女は目の前に立ち止まり、見上げる。

ふわりと甘い香水の香りが鼻をくすぐり、気分が悪くなりそうだ。

あまりの匂いのキツさになんとか表情を崩さず、ニコッと笑う。


「ごめん、気持ちは嬉しいけど俺今誰とも付き合う気ないんだ。でも──…」


『好きになってくれてありがとう』と言おうとした時、


「やだ!あたし、王子と付き合いたい!」


その女は目に涙を浮かべ、抱きついてきた。

更には腰に腕を回し、ぎゅっとシャツを握ってくる。


「あたしじゃダメなの?あたしの何がいけないの?」

「……」


…名前、なんだっけ。
この人のことなんて呼べばいいんだろう。

彼女の肩を両手で掴み、そっと優しく引き離す。


「本当にありがとう。でも俺なんかには君は勿体ないよ…」


うわ、俺きも。

心の中で一人おえ〜っと吐きそうになっていると抱きついてきた女子は唇を噛み締め、

「っ…王子のバカバカ!!
この、顔面偏差値桁違い野郎〜〜〜〜っ!!!」

と言って教室を飛び出して行った。