「ごめんね、急に手掴んじゃって…」

「い、いえ…」


駅のホームにあるベンチに座り、先程味わってしまった恐怖を忘れようと必死に違うことを考える。


「ああいう目に遭った時は大声出さないと。
たまたま俺が気づけたから運良く助けられたけど…」

「そう…だよね。ごめんなさい…」


…でも叫んだとしてどうなっていたのだろうか。


私の声はとてもよく通る。

いつもは大声なんて余裕だ。

だけどさっきのは恐怖と恥ずかしさと気持ち悪さで全く声が出せなかった…


「いつもは余裕で大声出せるの?」

「え?いや、あっ──…」


我に返り両手で口元を覆う。

今の全部声に出ていたのだろうか…
そうだとするとやばい女だと思われたな。


「ね、大声出せるとしたらどのくらい出せるの?」

「どのくらい……うーんと、ここから東京タワーまではいけるんじゃないかな?」


我ながら何を言っているんだろう、と思う。

今いる駅から東京タワーまでなんて声が届くわけないじゃないか。

馬鹿か?
いや、馬鹿だ。