スンスン…とやはり何かを嗅ぐような音も聞こえてくる。
そして下半身の辺りには男性らしき手が当たっている気がする。
もしかして、もしかしなくても…
私、痴漢に遭っているのでは…!?
い、いやでもバランスを崩したりして身動きが取れなくてたまたまそこに手があるだけで──…
そう思った途端、するりと外腿付近に男性の手が触れられる。
ゾワリと鳥肌が立った瞬間、完全に私は痴漢に遭っているのだと理解する。
まだ最寄り駅ではないけれど、次で停まる駅で降りるしかない。
涙が溢れてくるのを堪え、電車が停まるまで息を押し殺した──
「──すみません、前失礼します」
優しい声色に心地いい低音ボイスが頭上の方から聞こえた。
見上げると私と男性の間に端正な顔立ちをした同い年くらいの男の子が立っている。
彼の両手が左右真横にあり、どうやら壁になってくれているようだ。
黙って見つめていると目が合い、男の子はフッと微笑んだ。
「ごめん、次の駅に着くまでちょっとだけ我慢して」
耳元で囁かれ、私はコクリと頷く。
それからというもの、次の駅のアナウンスが流れ、扉が開かれる。
その瞬間、男の子に手を掴まれ、私たちは電車を降りた。