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「───当時は美緒のこと全く知らなかったし、電車で見かけた時はどっかで見たことあるな〜…っていうあやふやな記憶でもあったからさ」
そう言い終えると美緒は納得していなさそうな表情で俺を見ていた。
「なっ、なんで今更そんな話すんの!?」
「ギターケースについてるクマのキーホルダー見てふと思い出したから」
「そんっ…ひ、ひどいよ、日山くん!私が日山くんと出会う前に日山くんの方が先に私のこと知ってたなんて!!なんで声かけてくれなかったのさ!!」
「だってその時は美緒のこと興味なかったし」
「んなっ…!?」
悠を迎えに保育園へ行った日、
偶然美緒と会って彼女が背負っていたギターケースのファスナーの引き手部分に気色悪いクマのキーホルダーがぶら下がっているのを見て「あれ…?」と思ったことがある。
インパクトのあるそのクマに今更ながら彼女の音色に聞き惚れた頃の記憶を思い出したのだ。
「日山くんのばか!」
フグのように頬を膨らませて睨んでくる美緒を見て思わず「かわいい」と本音を口に出す。
すると美緒は顔を真っ赤にして目を逸らした。


