"美緒を彼女にする"とあんなに堂々と宣言していたのに、立ち去って行く際、少し悲しそうに微笑んでいた。

あの微笑みは何だったのだろう…という気持ちと美緒と速水が両想いじゃないことがわかって安堵した気持ちでいっぱいだった。


「───日山くんはさ、私のことどう思ってる?」


美緒は自信なさげな声でそう問いかけた。

泣いた後だからなのか、目が赤く腫れていて、涙の流れた跡がうっすらと残っている。


「日山くんの気持ち、教えてよ」


周囲の音が静まり返るかのように彼女の声だけが鮮明に聞こえる。


純粋で綺麗な涙。

俺を想ってくれた涙。

それがなんだか愛おしく思えて───


この人になら、美緒になら素のままの自分も悪くないかもって。

彼女にならださい一面も情けない一面も、全部分かってほしいなって。


"皆の王子"じゃなくて"日山 永遠"として───


ゆっくりと手を伸ばし、彼女の背中に腕を回して、

ぎゅっと優しく抱きしめた。