「そうだ!日山くん!これさっきの授業でね、クッキー焼いたんだ〜!」

「花崎さ……美緒…は、何の授業だったの?」

「調理実習だよ!余った生地でクッキー作ってね、日山くんに食べてもらいたくてさ〜!」


「はいっ!」とクッキーが入った透明のラッピング袋を渡される。

「あ〜〜〜…うん、ありがと」

クッキーを受け取ると嬉しそうにニコッと笑い、

「じゃあ、私次体育だから行くね〜!!日山くん大好き〜〜!!!」

と言って教室を出て行った。


花崎さんが出て行った後の扉をぼーっと見つめる。

あいつ、何で恥ずかしげもなく大勢の人がいる前であんな発言できるんだ?


「ね〜永遠〜。花崎ちゃんがくれたクッキー1枚ちょうだ〜い」

「…あ?黙れ、目潰すぞ」

「…え、ごめん……」


掌に収まっているクッキーに視線を移し、ほのぼのと気持ちが和らいでいく。


「(うわ、めっちゃ嬉しそ〜〜〜っ)」


深森が微笑ましい表情でこちらを見ていることに気づき、「何だよ」と言って睨んだ。

「べっつに〜〜〜??」

頭の後ろで手を組みながら背もたれにもたれかかる深森に少しイラッとする。


「──で、どう?花崎ちゃんのこと好きだなぁって思った?」


弧を描くように目を細め、ニヤつきながら聞いてくる。


「んなわけ…ねえ…だろ……」

「汗めっちゃかいてるけどだいじょぶそ?」


胸の辺りがくすぐったくて落ち着かない。

花崎さんを前にすると自分が自分じゃいられなくなって、なんだか調子が狂う。


彼女に対する気持ちにまだ認めたくなかった俺は言い聞かせるようにぎゅっと拳を握りしめた。