それは、高校生になったばかりの頃──
外は薄暗く、仕事帰りの会社員や部活終わりの学生。
毎日電車は満員で沢山の人たちが乗り込んでいく。
私もその日はバイトから帰る途中で電車に乗っている時だった…
「…?」
私の真後ろにいる男性に少し違和感があった。
…息が荒い?
何かを嗅いでいるような息遣いだった。
電車のドアのガラスが反射して、顔を顰めている私の姿と真後ろにいる男性のシルエットが映される。
30代半ばくらいの壮年男性でふくよかな体型。
眼鏡をしているため、目元はよく見えないが、いかにも地下アイドルとか2次元など架空の世界に存在する女の子が好きそうな容姿。
ただ単に見た目からの判断だから本当は違うのかもしれない。
私も見た目に似合わず、2次元の男子は大好物だ。
いや、こんな呑気に人を観察している場合ではない。
満員電車で狭くなって距離が近くなっているだけだろう。
きっとそうに違いない。
…だからもう少し扉の方に寄ろう。
鞄を抱き抱え、身を縮こませながらドアに張り付くようにして真後ろにいる男性から離れる。
すると男性が更に距離を詰めてきた。