砂埃を巻き上げて走り去る車があっという間に見えなくなった。深く息を吐き、薄雲を引いた蒼天を仰ぐ。

美樹。僕は今、焼ける砂の上に立ってる。水はあと僅か。乾いて干からびて、残骸になる前に必ず君に辿り着く。

・・・美樹。“印”を頼りに僕を探して。途方に暮れて泣いても怒ってもいい、ただ諦めるな僕を・・・!

瞑目して平地より澄んだ山の空気を大きく吸い込んだ。上着の内ポケットからスマホを手にし、アドレスを開いてコールする。

『・・・・・・なんだ廉、こんな早くに』

応答した相手は気怠い欠伸雑じりに。

「おはようございます征一郎(せいいちろう)さん。・・・すみません、今日は遅れるのでその連絡です」

『社長室付きの室長が遅刻か?・・・どうした』

訊いて欲しくて電話した自分にほんの少し呆れ、苦笑いが漏れる。