婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 えっ、ちょっと、メイシー!
 仕事ができる侍女メイシーは、てきぱきとあっという間に部屋を出て行った。

 なんで、こうなった……。
 町娘よりも少し派手な服を身にまとい、ロゼッタマノワールの入り口にとまった馬車に乗り込む。
 ピクニックというからには、領都を出て景色のより小高い丘へ向かうのだ。小さな湖もあり、とても景色がいい。歩くと2時間ほどの場所に向かうため、馬車で行くことになった。
 もともとは公爵家所有の馬車だ。一番地味なものを選び、公爵家の馬車だとわからないよう紋章も外してある。が、辻馬車や庶民の利用する貸し馬車とは違い、作りが上品で新しくて汚れもない。
 私やメイシーが乗りこむのも変なので、ロゼッタマノワールの前に止めてもらい、私たちだと分からないよう帽子を深くかぶった。使用人に人壁になってもらい、姿を隠して馬車に乗り込む。
 私の向かい側にメイシー。そして、アルが、私の隣に乗り込んだ。
「ひゃっ」
 思わず小さな悲鳴が上がりそうになり、口を押える。
 アルの体が乗り込んだ時に肩に触れた。それだけ。
「ん?何?」
 隣に座るアルが口を開く。声が近い。
 夢の中、耳元でささやかれた台詞が脳裏をよぎる「リリィー、好きだよ」。
 ああ、ダメ。あれは夢。あれは、夢っ。落ち着いて、私!
 そうだ、外の景色を見よう。小窓を開け、カーテン越しに外を見る。景色は領都の中心部から数分で郊外に変わり、西門をくぐって領都の外へと出た。
 すぐに、すすきがたくさん生えている野原を横切る。
 あ、そういえば預かった手紙の地図にすすき野原って書いてあった。もしかして、大鷲岩もある?
 少し離れた場所に視線を移すと、大きな岩が目にはいった。鷲?翼を広げて飛ぶ鷲の姿を想像していたので、いまいちピンとこなかったが、どうやら大鷲の頭部の形に似ているからそう呼ぶようだ。クチバシのようなでっぱりが確かにある。そうすると、三本杉というのは……?
「リリィー、何が見えるんですか?」
 メイシーが、私があまりにも真剣に外の景色を見ていたから気になったのか、自分の席の横にある小窓から同じように外を見始めた。
 私の隣に座るアルも逆側の窓から外を見た。
「ん?取り立てて変わったものはないけど、そちらの窓からは面白いものが見える?」