婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 アルの背中にそっと腕を回した。アルの腕に力が入って、私の心は愛しさでいっぱいになった。
 そうして、朝がやってきた。

 朝が来た。
 目から覚めて、ベッドの上でボー然とする。
 何、今の夢……。
 私が、アルを好き?なんで?
 アルを好きになるような出来事なんて何もないでしょ?
 そりゃ、ラッキースケベハプニングはあったけど。悪者に脅されたのを助けてくれた事件はあったけど。
 優しい笑顔をいつも向けてくれるけど。一緒にいて苦痛に思うことなんてないけど……。
 黄色いドレスを見てたんぽぽみたいって言うところとか……。
 私の瞳の色を新緑みたいと言うところとか……。
 自分で前髪のピン一つ留められないところとか……。
 全然イケメンじゃないよ?いい男って、もっといろいろとスマートにこなせるでしょう?
 ああそうだ。ダンスは上手かった。剣を振る腕も素晴らしかった。
 でも……。
 私が、アルを好きだなんて……。
 そんなはずない。
 だって、だって……。
 アルには好きな人がいるんだから。

 私は、好きな人がいる人を好きになったりなんかしない……。

■35

「リリィー様、本日のご予定はいかがいたしますか?」
 部屋を整えるための侍女がいるため、メイシーが侍女モードの言葉遣いで話しかけてきた。
 エディが領地に行ったため、代筆屋と代読屋の休みが一緒になったのだ。領都に来て、初めてのメイシーと一緒の休みかぁ。
「一緒にかわいい雑貨屋めぐりしようか!看板作業してる間にいいとこ見つけたんだ」
「それはいいですわね。でしたら、すぐにアル様を呼んでまいりますわ」
 ア、ア……
「なっ、なんでアルを呼ぶの?」
 ひゃーっ。アルの名前を聞いただけで今朝の夢を思い出して手に汗がにじむ。夢だとは分かっていても、まだ記憶が鮮明すぎて……困るよっ!
 メイシーは私の気持ちなど全然知らず、首を傾げた。
「護衛ですから」
 うっ。
「たっ、確かに護衛だけどっ、アルだって休みなしはかわいそうだし、雑貨屋に付き合わせるのは悪いわっ!」
 メイシーは確かにとうなづいたあと、ぽんっと手を打った。
「では、ピクニックはいかがでしょうか?アル様もずっとお屋敷にこもっていては気がめいりますわよね?」
「確かに」
「では、すぐに料理長にお弁当を用意していただきましょう。アル様にも声をかけてきますわ!」