婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 見ながら書くのであれば、子供たちに文字の練習も兼ねて書いてもらう?いや、だめだ。少し形が崩れた文字でも、それを見て覚えた人はもっと崩れた文字を使うようになるかもしれない。
 見本となるものは正確でなければ……。
 うーん、何かいいアイデアはないかな。……ってそう簡単に思い浮かべば苦労しないよね。とにかく今はできることをしよう。
 まずは大きめに書いたものを皆が集まる場所に貼ることから始めよう。教会のほかにどこかいい場所ないかなぁ?

 夢を見た。
「リリィー、一緒に逃げよう」
 アルに差し伸べられた手を取り、城を抜け出す。
「なぜ、私を逃がしてうれるの?」
 私が側室になったとしても、アルには何のマイナスもないはずなのに。むしろ、側室候補の女性を連れ出すなんて見つかればどんな罰を受けるかわからないのに……。
「わからない?」
 王都を出て、近くの村のにたどり着いた。
「部屋を一つたのむ」
 ベッドが二つ並んだ部屋に入る。
 いつ追手が来るかわからないから同じ部屋にしたんだろうけど……アルと同じ部屋だなんて。
「僕が、リリィーをあの場から連れ出した理由、本当にわからない?」
 部屋に入ると、アルは私の正面に立った。
「リリィー、好きだよ」
「アル?」
 アルが、ベッドをちらりと見る。
「今なら、まだ間に合う。このまま一晩僕と過ごしたら、リリィーはもう僕のものだ。どうする?」
 アルと一晩?それは男女の関係になるとかならないとかじゃなく、男性と一晩二人で同じ部屋ですごす……それだけで、貴族令嬢はその相手のものと世間ではみなされる。
「私……」
 返事が出せないでいる私の体を、アルがゆっくりと引き寄せた。
「リリィー、好きだよ」
 先ほどと同じセリフを耳元でささやかれる。
「側室になんてならないでほしい。僕のものに……僕の手の中に……」
 その言葉に、そっと抱きしめられた。
 アルの腕の中に……。
「リリィー」
 耳元でアルが繰り返し私の名前を呼ぶ。
 優しくて、情熱的で、切ない響き。
「ねぇ、アル、本当?私のことを好きだって、本当なの?」
 うれしい。
 私もずっとアルのことが好きだった。
 片思いだと思ってた。
 だから、アル……。
「早く、朝がくるといいね」
 二人で一晩ここにいれば、私は側室ではなくアルのお嫁さんになれる。
 アル、好きだよ。