婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 男の長い前髪が一房はらりと目の上に落ちる。「あ、あ、」と声にならない声を出した男は、次の瞬間床に膝をついた。
 そして、床に両手もついて頭を下げた。
「申し訳ありませんでした!お金は、差額はお支払いいたします!」
「問題はお金じゃないっの!不特定多数の女性に手紙を渡したでしょ?」
 差額って、まとめて書くと1枚当たり3セイン安くなるってあれ?同じ人に渡すものじゃなきゃ高くなるとかそんなんじゃないからっ!
「いえ、手紙を売ったのは男性ばかりで……」
 はぁー?男性だぁ?男色家?そういう人がいるってことは、小説でも読んだことがあるけど……いや、だまされちゃだめだ。
「代読屋に女性が手紙を持って来たわ」
「女性が持っていたということは、ちゃんとあの方たちは意中の人に渡せたんですね、よかった」
 と、男は嬉しそうな顔をした。
 え?ちょっとどういうこと?

「吟遊詩人?」
「ええそうです。言っていませんでしたか?前回書いていただいた言葉は、有名な恋歌の歌詞の一部だったんですが」
 あーそうなんだ。やけにすらすらラブレターの文章が次々出てくるなと思ってたら、歌詞だったのか!
 カウンター前に椅子を一つ置いて、座ってもらった。何やら誤解があったようで、お詫びにお茶も出す。
 よかった。女の敵だからって、鉄拳入れなくて。……いや、入れる気はなかったけど。
「うたった後に、ラブレターを売ったんです。歌に出てくる情熱的なラブレターというので、意中の人に告白できない方が酒の勢いも借りて買ってくださいました」
 1枚8セイン、2枚目からは5セインで買ったラブレターを10セインで売っていたそうだ。転売して儲けていたのがバレたと思ったらしい。
 代読屋に来ていた女性たちが持っていたラブレターは、吟遊詩人のウィーチェルさんからラブレターを買った男性からもらったものだったのだ。
「それで、何枚ラブレターは売れたの?」
「この間書いていただいたものは、全部売れました。ですから、また書いていただこうと思って……」
 なんですって!全部売れた?……たしか、20通も、20通も書いたよ?
 代筆屋で受けたラブレターは……その20通以外、ゼロだというのに……。この差は何なの?