婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 なんだか、私も少しだけ小説の登場人物になったような気持がして、不思議な感じだ。
 ふわふわっとした足取りでライカさんのお店を出る。
「ですが、貴族とスンナさんの娘さんはどのように出会ったのでしょうね?」
 アルがんーと考え込んだ。何?アルもそういう人の話とか興味あるの?
「やっぱり、定番設定では、貴族のお屋敷で働いているとか?」
「王都であれば、貴族の屋敷も数あります。ですが、ここはウィッチ領都ですから、貴族の屋敷と言えば」
 あー、うちしかないわ。スンナさんの娘が働いてても、貴族令息との出会いはないよ。私しかいないし。違った、唯一の子供の私すら屋敷にいないし。それを隠すために今は来客も断ってるし。
「あとは、お忍びで街に出ている貴族か……」
 とアルがぼそっと言う。
「アルも結構わかってるね!そうなんだ、小説の定番設定といえば、街にお忍びで貴族どころか王子様も現れるからね!」
「お、王子……」
 一瞬びくっとアルの肩が震えた。

■32

「小説よ、小説。実際そんなに貴族や王族がほいほいと街中歩くことなんてないって!」
 と言えば、アルが、残念そうな目を私に向ける。
 え?
 あれ?
 私も貴族か!ほいほい街中歩いてるよ!アルも、エディもメイシーも!
 うええっ、ってことは、王子様も気が付かないだけでほいほい街を歩いてたりする?
 やだ、「市井で3S男子探してたらうっかり王子と恋に落ちました」なんて、それこそ小説の世界じゃないっ。気を付けよう。
「そういえば、ライカさんのお店に貴族が来ていたんですよね?」
 アルの言葉に思い出す。そうだ、貴族らしくない貴族!
「うちの店に代筆した手紙預かってほしいってその人だよ!地図みたいなの書いてた……後で取りに来た人に渡して読んでほしいって……もしかして、それ、駆け落ちで落ち合う場所の地図なんじゃ?」
「いや、もう駆け落ちしたなんですよね?手紙はまだ預かったままですよ、それに」
 アルがふいっとライカさんの店に視線を向ける。振り返ってみると、その貴族らしくない貴族のカールさんが店に入っていくところだった。あー、駆け落ちした人がこんなところにいるわけないか。
 店に戻り、午前中に仕上げた看板を持っていく準備をする。