婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

「それは確かに不誠実にもほどがありますね。ラブレターの価値が下がっては大変です。二度と来るなと言った方がいいでしょう」
 朝一番に吊り下げ型の看板をいくつか回収して、午前中店番をしながら看板に文字を書き入れる。
 脚立に乗っての作業はできないけど、これなら私も手伝える。その合間に、名前を書いてほしいとかメニューを書いてほしいといったお客さんが何人か訪れる。
 うん、名前とメニューは少し広まってるみたい。……ラブレターの依頼はゼロ。……おかしいな。
 お昼はアルとライカさんのお店へ。
 ランチセットのメニューは日替わりだから毎日でも飽きないんだよね。同じように毎日やってくる常連さんの何人かと顔見知りになった。
 初日に相席になったおじさんたちとも、時々ご一緒している。色々と市井の話が聞けて勉強になるんだよね。
「こんにちは」
 今日も、店の奥のテーブルに見かけたので声をかけた。
「ああ、リリィーちゃんにアルくん、どうぞ、座って」
 おじちゃんの一人が相席をすすめてくれた。
 もう一人のスンナおじちゃんは……頭を抱えて暗い顔をしている。テーブルの上の肉はさみパンにはまだ手を付けていないようだ。
「どうしたんですか?」
 私の問いかけに、スンナおじちゃんは少し顔を上げてこちらを見ただけで、すぐに深いため息をついた。
「駆け落ちさ」
 もうひとりのおじちゃんが声をひそめて教えてくれた。え?駆け落ち?私が昨日偽装駆け落ちの話してたのとか、噂になって……ないよね?というか、例え噂になったとしてもスンナおじちゃんが落ち込む意味はないか。
「スンナの娘が、駆け落ちしちゃったんだ」
「え?おじちゃん、娘さんの恋に猛反対したの?」
 小説の中に出てくる駆け落ちカップルといえば、親の反対を押し切って二人一緒になるためというのが定番だ。
「反対はしてない。してたのは男の親の方だろうな……」
 スンナさんが今にも泣きだしそうな声を出す。それを見かねて、もう一人のおじちゃんが声を潜めて説明してくれた。
「あのな、スンナの娘の相手が貴族のおぼっちゃんらしいんだ」
 ふえっ、マジで?小説みたい!それで、それで?