婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

「え?逆?まさか、嫌いって書いちゃったってこと?ラブレターのつもりで、嫌いって書いちゃうことがあるなんて、文字は怖いっ!」
 さーっとライカさんが青ざめる。
「違うよ、ライカさん。エディが言っていた逆っていうのは、文字の順番。文字は左から右へ読むの。だから、これは「すき」じゃなくて「きす」になってるっていうこと」
「え?そうなの?左から右……そうなんだ。じゃぁ、文字はあってるのね?すきはこう書くのか」
 ライカさんが、もう一度指に水をつけて机に文字を書く。
 消えかかった「きす」の文字の下に「すき」と書いて、私の顔を見る。あってるよとうなづいて見せた。
「あはっ、すごい!私、二つも単語を書くことができたわ!好きとキス。ふふふ」
 うれしそうなライカさんの顔。
「おーい、ライカこれ頼む」
「あ、はーい。えっと、注文は?いつもと同じでいい?」
 ライカさんが去ってから、テーブルの上の文字を見直す。
 大人も、文字を覚えたい……。でも、仕事がある。生活がある。文字を覚えるための時間を確保するのは難しいかもしれない。
 今のようにちょっとした時間に少しずつ、1日1文字でも覚えていければいいんだろうけど……。そのためには何か教科書が必要だ。
 いくら看板が絵本替わりになるといっても、いつもで歩くわけにはいかない。仕事の合間に見ることができる教科書……。文字一覧表を書いて配る?
 誰が書くの?それに、50音を知らなければ文字がなんの順番で並んでいるかなんてわからないよ?
 絵と文字がセットになってなければ、その文字が何を意味してるかなんて分からない。誰か教える人がいてこそ、文字一覧表は役に立つんだよね。
「リリィー、聞いてる?」
 はっ!
「ごめんなさい、エディ。ちょっと考え事をしてたわ。えっと、何の話だったっけ?」
 エディがテーブルの上で私の手を取った。
「利用していいんだ」
「利用?」
 首をかしげる。
「俺を利用しろ」
 利用してるよ?伯爵なのに、代読屋とかしてもらっちゃってる。
「側室へと話が来たなら、俺と婚約したと言えばいい。偽装婚約で構わない」
「偽装、婚約?」
「ああ、側室回避のための形だけの婚約だ。リリィーが破棄したいときに、俺は捨ててくれて構わない」
 何それ。