婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 私がいかにタンポポが好きなのかを主張すれば、アルが小さく頷いた。
「僕も……。髪の毛に綿毛をいっぱいくっつけた子の笑顔も、彼女が僕のために摘んできてくれたタンポポも、窓から自由に飛んでいく綿毛も……」
 アルの空色の目には、今を映していなかった。タンポポの思い出が映し出されているようだ……。とても幸せそうな瞳。
 そうだ、アルには好きな人がいると言っていた。
 きっと、そのタンポポを摘んできた子が好きなのだろう……。
 目の前にいるアル、手を握り体を寄せて踊っているアルが……とても遠くに感じる……。
 何だろう、胸の奥がきゅっとする。
 焦り?
 焦燥?
 ……大丈夫、私だって、アルみたいに好きな人を見つけるんだから……。

■24

 6曲。私とメイシーとアルとエディーがパートナーを変えながら踊った。
 ぐったり。
 さすがに6曲も連続で踊るなんて、最後の方はもう、足を踏まないようにとか全然意識せず、リードするエディやアルにまかせっきりで無意識に体だけ動いてた……。
 会話?そんな余裕はなかったよ。
 うわーん、疲れた!
 でも、部屋の片隅でロッテンさんが目を光らせてる。
 舞踏会では、疲れたからといって、だらぁーっとできないんだよね。
 一応、部屋の片隅に休憩するための椅子があるんだけどさ。ドレスんときって、浅く腰掛けるわけよ。なるべくドレスの形が崩れないように気を付けないといけないの。本当は座らないのが一番なんだけど……。
「疲れたでしょう?」
 アルが、私の顔見て手を引いて椅子をすすめてくれた。こんな場合は、座ってオッケーなのっ!
 いや、本番の舞踏会だったら、気のない相手の勧めだったら断らないと誤解されるからダメだけどさっ。っていうか、本当めんどくさい。舞踏会ってやつ。
 結婚相手を探す場も兼ねてるわけだから、むしろ婚約者がいたり既婚者だったりしたほうが楽なんだよ?
 うううっ。
 舞踏会で楽するためにも、2年で何としても婚約者ゲットしなくちゃっ!
 4人で椅子に腰かける。
 そこで、パンパンッと、ロッテンさんが手を打つ音が響いた。
「はい。今日のダンスのレッスンはここまでといたしましょう。皆さまとてもお上手でしたわ」
 ほっ。
 やっと終わった。合格点もらえてよかった。