婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 いつもピンでとめるか下ろしているかの前髪も、整髪料で整えられている。中央で分け左右に流している。
 いつもイケメンだけど、こうして貴族の正装姿に、きちんと整えた髪になるだけで……、いや、もう、何……。
 かっこよくなりすぎ!
 ああ、そうだ、あれだ。小説でもあったよ。制服フェチ。なんか着る服が変わるだけで心ときめいたりするんだよね……。
 やばい。アルの正装姿、ちょっとドキドキする……かもっ!
 差し出されたアルの手に、添えるように手をのせる。
 落ち着け、落ち着け。
 音楽が始まり、アルが流れるようなステップで踊りだす。
 うわっ、いや、そういえば、メイシーがアルとのダンスの練習緊張したって言ってた。
 めっちゃアルのダンスが上手かったって言ってたよね……。本当に、すごく、上手だ。
 エディも上手だけど、なんだろう、アルはリードが上手いのかな?私まで上手になったような気持ちになれる。
「可愛いね」
 え?
 ダンスのステップに体が慣れたころ、アルが小さな声で話しかけてきた。
「タンポポみたいで、とても可愛い」
 あ、ドレス、そう、ドレスのことね。
 びっくりした。うん、そうだよね。私のことじゃないよね。
 確かに、クルクルと回る動きに合わせてドレスのスカートが広がって、このドレスとても可愛いんだ。
 パッと顔を上げると、アルの瞳が至近距離にあって、びっくりしてすぐに下を向く。
 あ、いや、ダンスなんだし、この距離に瞳があるのは普通なのに……なんで驚いたの、私!
「あ、ごめん……タンポポって、その雑草に例えるなんて失礼だったね……」
 アルが、必死に謝罪の言葉を述べる。
 そうか、すぐに目をそらしちゃったから、私が怒ってると思わせちゃった?
「庭園に咲き乱れる、黄色の……えっと、ラナン……ラナンキ?……」
 ステップは優雅なのに、顔は困り顔。口からは暗号みたいな言葉。
 くすっ。
「ラナンキュラス」
 アルが思い出せずにいた花の名前を口にする。
「そう、それ、」
「ラナンキュラスも好きだけど、私はタンポポも好き」
 ニコッとアルに笑いかける。雑草とか観賞用だとか関係ない。だって、タンポポは
「「綿毛」」
 あっ。
 私とアルの台詞がかぶった。
「そうなの、タンポポって黄色い花も可愛いけれど、綿毛もフワフワで可愛いし、青空に向けて飛ばすの大好きなの」