婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 食べ物を口に運ぶしぐさも、貴族らしからぬ。そして、咀嚼する口元のだらしなさは……。
「確かに、王都ではあのような食べ方をする貴族を見たことはないですね……」
 もし王都に居たら、噂になったはずだ。ということは、王都には姿を現したことがない地方の貴族か、大きくなってから貴族の養子になった者か……。
 どちらにしても、私の顔を見てもウィッチ公爵令嬢とはバレそうにないわね。

 看板の文字かきばかりしているわけにもいかないので、午後はお店で接客。
 お客も少ないし、アルが看板書き、私が店番と分業できればいんだけど……。
 元々アルは私の護衛っていう任務があるから、離れるわけにもいかないんだよね。何か、いい方法はないかな。

■23

「リリィーお嬢様、急いでください!」
「急ぐって?」
 店を閉めて部屋に戻ると、メイシーがバタバタと部屋の中で動き回ったいた。
 いつもの市井生活庶民風ワンピースでもなく、侍女の制服でもない、子爵令嬢ドレス姿をしている。
 質問の答えを返される前に、代筆屋用庶民ワンピースを脱がされ、コルセットをぎゅっと絞られる。
 ぐえっ。
「さぁ、リリィー様、早く、早く!」
 ドレスに足を入れろと、メイシーがせかしてくる。
 舞踏会へ行こうかというくらい、豪勢なドレスだ。
「さぁ、準備は整いましたね。やはり、リリィー様には黄色のドレスが良く似合います」
 メイシーは鏡に映った私の姿を見て、満足げに頷いた。
 私も、タンポポ色のドレスは大好き。
 いや、だから、何でこんなお気に入りのドレスを着せられてるの?
 メイシーに言われるままに、部屋を出て大広間へと足を進める。
「さぁ、リリィー様。部屋に入ったら、舞踏会の会場だと思って行動してくださいませ。市井で生活してマナーを忘れないための本番さながらのレッスンです」
 なるほど。
 本番さながらなので、服装も舞踏会用を着せられたのね。だけどねぇ。やっぱり緊張感は出ないよね。
 舞踏会の必需品、扇で口元を隠して小さなため息をつく。
「ロッテンさんが厳しくチェックしていますからね」
 ひっ。はい。本気で臨みます。まずは、背筋を伸ばすところから始まます!
 大広間の扉を、控えていた侍女が開ける。