婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 店からは、身なりの良い男性が出て来た。
 あー、また代読の依頼なのかな?繁盛してるなぁ。
 黒のスーツをビシッと来た男性の顔を見ると、どこかで見覚えのある顔だ。
40歳くらいの男性……私の記憶ではもっと若かった。誰だっけ?
「トーマスさん?」
 声をかけると、男性がこちらを向いた。
「ああ、やっぱり、トーマスさんね?お久しぶり」
「リ、リリィーナお嬢様……」
 おっと、本名で呼ぶの禁止ですよっ!
 会話が聞こえないように、アルから少し距離を取る。アルも、昔の知り合いとの会話に聞き耳を立てないようにと気を使ってくれたのか、距離を詰めることはなかった。
「こんなところで会うなんて……元気?あの事件のあと、タズリー家で働いていた皆がどうなったのか、心配していたのよ。皆、私にとても親切にしてくださったから……」
「私の心配までしてくださっていたとは……ありがとうございます。リリィーナお嬢様。私共、不正にかかわっていなかった者はウィッチ公爵様の計らいもあり、エドワード様の元で働くことができましたので……」
 そっか。
 タズリー公爵と嫡男は処分されたけど、元婚約者のエドワードは伯爵に降爵されたけれど貴族として残ったのよね。領地も小さくなったけれど与えられたはずだし。
「そう、じゃぁ、今もエドワードの元で?……?」
 エドワード……。優しかった私の元婚約者。
 紅茶色の瞳に、ブロンド。私より3つ年上の……。
 まさか……?
 トーマスさんが出て来たばかりの代読屋のドアを開ける。
「エドワード!」
 エディがニヤッと笑って私の顎に手をかけた。
「どうした?リリィーナ」
「!!!」
 驚きすぎて、声が出ない。
「エ、エ、エドワード、あの素敵なブロンドはどうしちゃったの?!」
 エディの髪の毛を指す。
「リリィーナ、他に言うことあるだろう……」
 エディは、はぁっと大きなため息をついた。
「髪は成長するにしたがって色が濃くなったんだよ。よくあることだろう?」
 よくあることなの?
「じゃぁ、本当に、エディはあのエドワードなのね?」
「そうだ」
 エディがメガネを外した。
「君の元婚約者のエドワードだ」
 ああ、確かに、エドワードの面影がある。
「でも、なんで、エドワードがここにいるの?」
 エディは、片手で私の顎を上に向けたまま、メガネを外した顔を近づけてきた。