婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 寝巻に着替えながらメイシーに尋ねる。アルの言っていた頑張らないのが一番の意味がどうしても分からなかったからだ。
 メイシーは何と答えたらいいのか一瞬悩むような顔を見せた。
「小説に、よく出て来たように、恋に落ちるのは一瞬なのかもしれません」
「そうね!頑張ってするものじゃないのね?運命の相手との出会いは、突然やってくるのね!」
 運命の出会い……。なんて素敵な言葉!
 政略結婚と対照的な言葉ね!
「ふふ、もう出会っているかもしれませんよ?」
「まさか!」
「よぉ~く、考えてみたら?」
 メイシーが人差し指を立てた。
「え?だ、誰だろう?もしかして、今日来たお客さんの中に?」
 メイシーがずこっと変な動きをする。
 何?変なこと言ってないよ?

 少しずつお客さんが来てくれるようになったとはいえ、決して売り上げは良くない。
 生活でいるかというレベルで言えば、苦しいだろう……。うーん、何かもっとお客さんを増やす方法はないかなぁ。
 宣伝が足りないのかな。
 たぶん、ずっとこのまま待っているだけじゃぁ、これ以上増えないんだろうなぁ。
 店番をするアルを見る。接客中は前髪は降ろしてる。素敵な目を隠してるんだよね。目元イケメンなのに。髭を剃るとどんな顔してるんだろう?
 すんごいイケメンだったりして?
 イケメン店員がお出迎え~ってことで、女性客増えないかな?
 女性客に囲まれるアルを想像する。
 ……。
 空色の瞳を覗き込んでうっとりする女性客。
 ……。なんだろう、全然嬉しくない。お客が増えても嬉しくない!
 やめやめ!
 アルは人見知りなんだから、顔を出させたりしないよっ!
 ぶんぶんと大きく頭を振る。
「どうしたの、リリィー?」
「アル、」
 アルの前に立ち、前髪をかきあげる。
「?」
 アルが唐突に前髪をかきあげられ、びっくりした顔。
「えへへっ」
 空色のキラキラ。
 他の人に見せるなんてもったいないとか、私って意外とケチだったんだわ。
「えっと、リリィー?」
 アルが焦った声を出す。
「ああ、ごめんごめん。えっと、ちょっと、代筆屋の宣伝方法を考えていて」
 アルの額から手を放して、手をプラプラとさせる。
「宣伝?」
 自分の前髪のをつまんで、アルは首をかしげる。
 うん、そりゃそうだ。代筆屋の宣伝とアルの前髪はまるっきり結びつかないよね。ごめんごめん。