婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

「自分から婚約破棄を言い渡したんだ。いくら好きでもあきらめなければと思っていた。それが、もう一度チャンスが巡ってきた。婚約者を自分で探すと言う話だ。正体を隠して、一からまた初めて好きになってもらえればと……」
 アルの婚約者だった女性って……。
 自分で婚約者を探すって……。
「リリィーナ……、リリィーずっと好きだよ。もういちど、婚約してほしい」
 アルが膝をついてプロポーズの姿勢をとる。
 涙で前が見えない。
 アルの青空も、涙で見えない。
 私……。
 私なの?
 アルが好きな子というのは、私なの?
「だって、アル、好きな子がいるって……」
「本人を目の前にいきなり君が好きだとは言えないよ……」
 本当に、私?
「アル……私……ずっとアルには好きな子がいるから……諦めなくちゃって……」
 私の言葉に、アルがすっと立ち上がった。
「リリィーそれって、僕のこと好きだってうぬぼれてもいい?」
 アルが私の両手を取った。
 涙でぐちゃぐちゃの顔でうなずいた。


 後日談。

 晴れて、両想いになった喜びですっかり忘れていたけれど……。
「さぁ、ではしっかりとレッスンいたしましょうね」
 ロッテンさんの皇太子妃教育が始まった。

「リリィーも何年か先には王妃かぁ」
 レッスンのストレス解消に、力任せにインク棒をぼんぼんと紙にたたきつけてる私に、メイシーが現実を突きつける。
「無理だよぉ、絶対、無理っ!メイシー、今なら変わってあげるよ、まだ婚約段階だし。ほら4回も5回も変わらないからさ、婚約破棄とか平気だから!」
 
 識字率が上がったことにより優秀な人材が増え、発展目覚ましいアンドゥール王国。
 その立役者として名高い王女の指先のインク汚れを、いつも侍女が手袋を差し出して隠し通したことはあまり知られていない。