婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

「感謝する、エドワード伯爵」
 アルが、私の手を取り歩きだした。
 振り返ればエディが膝をつき頭を下げたままの姿が見える。その少し後ろにメイシーの姿もあった。
 パーティー会場の奥の控えの間に、アルに連れられて入った。
「リリィー」
 アルが、私の名を呼ぶ。
 アルと、返事をしそうになって押しとどめる。
「アル……、アシュルバート様……。どうか、好きな方をお選びになってください。過去の婚約に縛られることはございません」
 すっと、ロッテンさんに散々仕込まれた礼を取り頭を下げる。
「好きな人を選べか……。では、これから告白することにするよ」
 ギリッ。
 胸が万力で絞められたように痛んだ。
 
「僕の命は、彼女の笑顔でこの世につながれていたんだ」
 アルは気持ちを整理するためなのか、私に話を聞かせ始めた。
「病に侵され、死を待つばかりだと思って絶望していた僕に、彼女は無邪気な笑顔を見せてくれた。今日はタンポポを見つけたの。蛙が御池にいたのとその日あったことを楽しそうに教えてくれたんだ」
 小さなころからの知り合い?私と婚約破棄してから静養していた場所で知り合ったのかな?
「その時の気持ちがわかる?僕はベッドから立ち上がれないのに、自分は外の世界であったことを話すんだ。自慢しているようにしか思えず、憎かった」
 ……。
「だけど、違ったんだ。彼女は、何もできない僕を必要だと言ってくれた。嵐の日。僕の部屋にやってきた彼女は僕の目を見て笑うんだ。青空が見えるの……って。ずっと一緒にいてねって……」
 青空?
「僕が元気になったら、一緒にタンポポの綿毛を飛ばしたり、蛙を捕まえたりしたいって。だから、タンポポがどこに咲いているのか、蛙がどこにいるのか探して覚えてるからねって……。彼女はいつだって、僕のことを考えてくれていた。僕は元気になるって信じて疑いもしなかった……」
 アルの思い出話は続く。
「僕は、彼女のことが大好きになった。そして、好きになれば好きになるほど、苦しくなった。一緒に走り回れない僕は、彼女にふさわしくない、彼女を幸せにすることはできないと思った……」
 でも、今は病気も治って健康になったんだよね。
 だったら、きっとその彼女を幸せにすることができるね……。
「だから、婚約を破棄した」
 婚約……破棄?