婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 婚約者として、私のエスコートをしてくれている。第二王子は、皆からの祝いの言葉を受けるため、会場の一番奥の2段ほど高くなった場所にいるはずだ。
 エディの腕に手をかけて、人込みのなかゆっくりと進んでいく。
 人と人との隙間から、王子の頭が少しだけ見えた。
 少し茶色がかった金色の短く切られた髪が見える。次に見えたのは、白くてつるりとした顎。
 うん、今のところ清潔感があっていい感じだ。メイシーの理想とする王子に近いんじゃない?
 あと数メートルと近づいたとき、人垣が割れた。
 見えたのは、青空。
 すぅっと、パーティーの喧騒がやむ。
 いや、私の意識が、パーティーから飛んだ。……青空に吸い込まれるようにして……。
 ただ、一人の姿しか見えない。
 アルだ……。
 アル……。
 アルの目が、私を見ている。
 エディが、私の背を軽く押したことで、はっと意識が戻る。
「さぁ、第二王子アシュルバート様に挨拶をしよう」
 アシュルバート王子……!
 アルが、まさか……。
 エディに押されるように、2,3歩足を進めるが、それ以上足が動かなかった。
 アルが、椅子から立ち上がり、2段降りて私とエディの元へ歩いてくるのをぼんやりとした意識でいていた。
 髪型が変わろうと、髭を剃ろうと、着ているものが変わろうと、私がアルを間違えるはずがない。
 アルの目はまっすぐ私を見ている。
 涙が出そうだ。ダメだ。
 第二王子の元婚約者の私が、奇妙な行動をとっては……。
 エディが震える私の腕を、離した。

「今、ここで君との婚約を破棄する」
 エディの声が、会場に響き渡った。
 婚約破棄?
 なぜ、今、エディはここでそんなことを……。
 4度目の婚約破棄ともなれば、それ自体のショックは少ない。
 だけれど、公の場、皆の目が集まっている場で言い渡されたことに理解が追い付かない。
 エディが、アルの前に膝を折った。
「アシュルバート様、ご快復おめでとうございます。王子の婚約者をお連れいたしました」
「「エディ」」
 私とアルの言葉が重なった。
「リリィーナ様との婚約破棄したのは健康上の問題だったと伺っております。その問題が解決されたのであれば、婚約破棄をなかったことにすべきかと」
 何を、何を言うの、エディ!
 アルには好きな人がいるんだよ!
 我慢していた涙が落ちる。