婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 エディがハンカチを出して涙をぬぐってくれる。
「これで、アルが自分を責めて苦しまないで済む……本当に良かった……」
 胸のつかえが降り、漏れた言葉に、エディの手が止まる。
「アルの心配か……」
 ぼそりとエディがつぶやいた。
 あ。そうだ……私に悪いうわさが立てば、婚約者であるエディにも迷惑が掛かるんだ。
「エディにも、これ以上迷惑をかけなくて良かった……ごめんね……」
 エディが、ぐっと私を抱き寄せた。
「謝るな……リリィー、謝るな……」
 エディの声が少し震えてる。私、言葉を間違えた?

 エディが王都へ行くのに合わせて、私とメイシーも出発の準備を整える。
 とはいえ、持ち物そのほかの準備は侍女さんたちがしてくれる。私とメイシーは二人で歌3つの紙をたくさん作っていた。予算を取ることができるかどうかは分からないけれど、とりあえず公爵領の領都の皆には配りたい。せっかく、名前や看板など文字に触れる機会が増えたのだ。文字に興味を持ってくれている人も増えた。
 あれからいくつか焼いてもらった陶板印の上に紙を乗せて、油で練ったインクでぽんんぽんぽん。
「第二王子の快気祝いが、もう2週間後なんですね……」
 メイシーがはぁーと小さくため息をつく。
「明日には王都に向けて出発よ。メイシーとこうしていられるのもあと数日かもしれないね」
「え?リリィーなんてこと言うんですかっ!」
「だって、メイシーは第二王子に見初められて、未来の王妃になるかもしれないんだから」
 新しい紙をのせてぽんぽんぽん。
 インクをそのまま手で持って作業すると手が汚れるため、目の粗い布にくるんで持つところを取り付けてある。
「リリィーは王妃になったからって、私を捨てたりしないですよね?」
 メイシーの言葉。
「当り前よっ!一生友達でしょ?王妃になったって、何にも変わらないから!」
 私の言葉にメイシーがぷっと吹き出した。
 おしゃべりしながらも、手はぽんぽんぽんと紙の上にインクを乗せる。
「市井で暮らしたり、工房に行って実験を繰り返したり、部屋でインクまみれになったり……王妃になったらさすがに変わりましょう?」
 うっ。
「いっ、いいのよ!私は王妃にならないから。違うでしょ、メイシーが王妃になったらって話で、私達は仲良しのまま変わらないっていう話よね?」

 王都へ馬車で移動。