婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 次の日の朝にはいつも通りメイシーが起こしに来てくれたけれど、顔色が悪い気がする。
「はい、大丈夫ですよ」
 大丈夫って言っている割には、笑顔もぎこちない。
 朝食後、珍しくエディに呼び止められた。
「リリィー、そういえば昨日は何かを見せたかったんじゃなかったのか?」
 エディに言われて、昨日メイシーと成功したあれを部屋から持って来た。
「メイシーと一緒に作ったの!見て!」
 紙の8割が黒く塗られた紙。
 煤を油で練った特殊なインクで色を付けたものだ。
「これは、白抜きの文字で歌が書いてあるのか?」
 そう。8割は黒い。残りの2割は余白と文字だ。
「そうなの。陶板印で作ったの!」
「陶板印?」
 エディが初めて聞く単語に首をかしげる。そりゃそうだ。私とメイシーが作り出したんだから!
「陶器のハンコを改良して作ったの。粘土を薄く広げ、糸で平らにするの。そこに、彫刻ペンで文字を書くのよ。書くというよりは掘るんだけど。そして、余分なカスを取り除き、焼くと、巨大な陶器のハンコができるっていうわけ。これを、陶板印って呼ぶことにしたの。陶板印はハンコのようにインクを付けて押すんじゃないの。紙をのせて特殊な油インクを乗せるの。そうすると、へこんだところにはインクがつかないから、文字が浮き出るのよ」
「なるほど、考えたな。紙を上に乗せるのであれば、陶板印を持ち上げる必要もないから重たくても平気なわけだな。落として割れる心配もしなくていいのか。文字も、逆文字にせず、普通の文字を書き込めばいい」
「そうなの。木の板を彫るのに比べて、粘土ならさほど力もいらないし、間違えた部分に粘土を埋め込めば修正もできる。焼くときに割れたりして失敗することもあるけれど……1つ完成すれば、あとは紙をのせてインクをつけるだけだから、文字を知らない人に作業してもらうこともできる。これで、文字を覚えるための歌を書いた紙をどんどん作ることができるわ!」


■51

「ウィッチ公爵領の皆に配りたいという話か……現実的になってきたが、予算は?」
 エディが口を開いた。
「予算?えーっと、それは」
 考えてなかった。というか、はじめは、代筆屋と代読屋の売り上げで活動するみたいなことにしたんだよね?今は人を雇って代筆屋とかしてるから人件費を捻出しないといけないから……あれ?予算がない?