婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 何か、できそうな気がした。
 場所を教えてもらって、今度は焼き印を作っている工房を訪れる。

■50

 焼き印の他に、ハンコも作っているそうだ。
「一つ作るのに、相当かかるよ。小さな物ならなおさらだなぁ」
 と言われた。
 工房ではシーリングスタンプ……手紙の蝋封をするための印を作っているところを見せてもらった。
 確かに、一つの金属印を作るのに、とても手間がかかるようだ。
「あれは、何をしているんですか?」
 すこし離れた場所では土をこねている人がいた。
「ああ、これを作っているんですよ。陶印と言って、商人の間で使われているハンコです。金属で作るよりも早く安価でできます。ただ、金属のものに比べて壊れやすいし偽造されやすいから、貴族の間ではなじみがないかもしれませんね」
「陶印?」
 土は、陶器を作るための粘土と同じもののようだ。こねて、空気を抜く。必要な大きさを糸で切り取る。
 そして、印となる面の土を削り取り形を作る。それを、窯でやいて作るそうだ。
 焼き上がった印に、インクをつけて紙に押し当てている人の手元を見る。
 ポン、ポン、二つ、三つと同じ文字が押されていく。「マルコ」とかかれている。ただし、すこしずつかけた部分があったりして、金属印よりも不鮮明な印象だ。
 出来上がりの確認が終わると、職人さんはハンコについたインクを綺麗に拭う。
 そして、ハンコの上に小さな紙を被せ、黒いインクが染み込んでいる小さな固まりを紙の上にぽんぽんと押し当てた。
「何をしてるんですか?」
 職人さんは、黒い固まりを置いて、紙を見せてくれた。マルコの文字が、逆さまになっている。
 陶印に掘られた文字が逆にならずにそのまま写ったのだ。
「同じものを頼まれることがありますから。こうして彫った形を残しておくんですよ」
 逆さまにならない……。
「これは、にじまないんですね」
 メイシーが、先ほどぽんぽんとしていたものに興味を持ったみたいだ。
「ああ、これは普通のインクとは違うんですよ。煤を油で固めに溶いたもので……おもしろい使い方もできるんですよ」
 職人が見せてくれたそれに、私とメイシーは気がついてしまった。
 これだ……と。
「あの、お願いがあります!」
 私とメイシーは次の日から工房に通って実験を繰り返した。
「できた……」
「やりましたね、リリィー……」