婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 今回も、業者に来てもらって依頼することはできたけれど、足を運ぶことにした。昔の私なら絶対しなかっただろう。工房があるのは街だ。貴族令嬢が街へ足を運ぶ機会は多くない。
 だけれど、半年の市井生活で、私もメイシーも街の楽しさを知ってしまったのだ。
 とはいえ、さすがにお忍びでふらふらするつもりはない。今日は、貴族令嬢として護衛やお付きのものを何人も連れての工房見学兼製本注文だ。
「表紙はどのように致しましょう」
 ずらりと並べられた表紙見本。
 普段見るものは、馬や牛の革が使われている。が、見本として置かれているものは、紙を何枚も重ねて張り合わせたものや、板。それに、蔦を編んだものなどいろいろとあった。
「うわー、初めて見た。表紙って革で作るものだと思ってたよ」
 メイシーもうなづいている。
「こちらの板は、書類を閉じるために主に用いられます。お嬢様が本棚に並べられるのであれば、やはりこのあたりのものが」
 そうか。木は書類用なんだ。紙を何枚も重ねて張り合わせた厚紙は、試作品らしい。木は割れてしまうため、他に何かないかと作ってみたそうだ。まだ耐久性など不明なため薦められないらしい。
 結局、長く大切に保存して代々残すのであれば革がよいということで、革にすることに。
「装飾はいかが致しましょう?」
 表紙に宝石をちりばめることもあるが、私もメイシーも過度な装飾は好まない。読むとき邪魔なんだよね。
「では、飾り印はいかがですか?」
 と、金属の棒を何本か見せられた。
「焼き印で、表紙を飾ることができますよ」
 花や小鳥などいくつかの絵の焼き印見本を見せられた。
「あ……」
 タイトル用の焼き印もあった。一文字ずつばらばらになった金属の焼き印だ。
「メイシー、これ!」
 ぽんぽんと、押すだけで文字がかける。これならば、もっと早く簡単に写本できるんじゃない?
 いや、一文字ずつ選んで押して、次の選んで押してって、書くより時間かかるか。
 でも、あらかじめ並べておいたら?それをぽんって押せば?
 例えば、1ページ分。並べるのに時間がかかったとしても、そのあとはぽんぽんと押すだけなら早いんじゃない?
 メイシーに話すと「同じ文字がとてもたくさん必要になりますよね?」と言われた。たくさんあればできそうってこと?
 表紙の注文を急いで済ませる。
「焼き印はどこで作ってるんですか?」