婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

 私の不審な様子は、メイシーの言葉を信じて、さらわれたことを思い出したためだと思ってくれたようだ。
「エディ、平気だよ。ほら、これ見て!」
 ぐっとお腹に力を入れて声を出す。本を書き写し終えた紙の束をエディに見せる。
「これは?」
「写本したの。とっても素敵な物語だったから、手元に置いておきたくて」
「ここにある本は、もうリリィーのものも同然だよ。手元に置いておきたかったら好きに持っていっていいんだよ?」
 エディが優しく笑った。
「ダメよ、この本は、本大好きな私やメイシーが初めて見た本だよ?もしかするとこれ1冊しか世の中に存在しないかもしれない。もし、この本を紛失したら、この物語はもう誰にも読まれなくなっちゃうんだから!」
 本の話をするうちに、波立っていた心がすこし落ち着いた。
「そうですよ、エディ様!この本も、この本も、こっちの本も、文章の感じからすれば同じ作家が書いたものだと思われます。文字も一人の手でかかれたようです。もしかすると、原本であり、写本が1冊も存在しない可能性すらあります!」
 と、メイシーが私以上に熱く語った。
「そういえば、何代か前に嫁いできた令嬢が、多くの物語を残したと聞いたことが」
 エディの言葉に、私とメイシーは顔を見合わせた
「「それだーっ!」」
 これだけの名作がそろっているのに、私もメイシーも全く知らなかったのは、書いた本人が製本して本棚に並べて誰にも見せることなく亡くなったからに違いない。
 っていうことは……。間違いなく原本。写本はないわけで……。
「メイシー、他の本も書き写しましょう!」
「ええ、リリィー!書き写して王都の読書好きに広めましょう!きっと皆さん写本してどんどん広めてくださいますわ!」
「ああ、じれったい!私の体が100あれば、次々写本できるのにっ!」
 1冊書き写すのに10日かかった。メイシーと二人で10日で2冊だ。
 たくさんの人に読んでもらいたいけれど……写本が増えるまではなかなかそうもいかないよねぇ……。はー。

 次の日、エディは領地を回った後の書類仕事があるということで、私とメイシー二人でお出かけすることにした。
 写本した紙束を持って、製本業者に製本の依頼をしに行くのだ。
「楽しみですね、リリィー」
「本当ね、メイシー。今まで製本してもらったことはあったけれど、工房を見たことはなかったものね!」