婚約破棄3回された公爵令嬢の代筆屋

「写本以外でいえば、口伝とか?吟遊詩人が語る物語を、文字に書き留めて本にしますか?」
 メイシーの提案にポンと手を打つ。
「それなら元になる本は必要なくなるね!それに、新しい物語の本もできるのかぁ。うん。いいかも!一度、吟遊詩人のウィーチェルさんと相談してみようか?」
「リリィー、ウィーチェルさんは公爵領にいるんだよ?」
 メイシーに言われて、そうだ、ここはもうウィッチ公爵領の領都でも、ロゼッタマノワールの部屋でもないことを思い出す。
「あー、そうだった。タズリー伯爵領にも吟遊詩人いるよね?探して、ラブレター普及委員に任命しなくちゃっ!」
「あれ?ウィーチェルさんは宣伝大使じゃありませんでしたか?今度は普及委員?」
「メイシー、細かいことはどうだっていいのよっ!ノリよ、ノリ!」
 ふふふっとメイシーが笑った。私もえへへっと笑い返す。
「なんだか、楽しそうだね」
 え?
 図書室の入り口には、エディの姿があった。

■49

「エディ!おかえりなさい!早かったのね!」
 まだ出かけてから2週間は経っていないはず。
「天候にも恵まれて、思いの外順調だったからな。で、楽しそうになんの話をしていたんだ?」
「吟遊詩人の話をしてたの」
 私の言葉に、エディがうなづいた。
「ああ、ラブレター宣伝大使だったか。タズリー領でも代筆屋をみんなでやるか?」
 エディが私とメイシーの顔を見た。
「アルがいないから、代読屋と代筆屋を二つやるのは無理だけどな」
 バクンと心臓が跳ねる。
 エディのなんでもない言葉。ただ、アルの名前が出た、それだけで……。顔が強張った。
 まだ、ダメだ。
 名前を聞くだけで……、自分でも不思議なくらい心が波立つ。
 切なさとか、愛しさとか、懐かしさとか、寂しさとか……もう、何の感情かわからない波が荒れ狂っている。
 メイシーが、私を心配そうな顔をして見ている。
 私、そんな心配させちゃうような表情してる?……だめだ、エディにも心配かけちゃう。
 笑え、何でもないことだと……。笑って、何かいわなくちゃ……。
「エ、エディ様、代筆屋では事件に巻き込まれたりしたので……」
 メイシーがいつまでも言葉が出ない私の変わりに、エディに返事をしてくれた。
「ああ、そうだったな。すまない。配慮が足りなかった」
 エディは、私のアルへの気持ちは知らない。